行き先も見えず、多岐亡羊

おじさんがダラダラ書いている日記的なモノ

時代の証人 その2

 

NHK - BSスペシャ
「 独占告白 渡辺恒雄 ~ 戦後政治はこうして作られた 昭和編 」

26歳で政治記者となった渡辺恒雄
自民党総裁選挙の大会を開く会場の廊下にね、大きな風呂敷包みがある。全部、現ナマですよ。代議士が次々に来て、札束を新聞紙に包んで渡す。僕の目の前で大っぴらにやってるんだ。1時間後には、札束の山が綺麗になくなった。最初見た時は、やっぱりショッキングだったよ。 」 「 リアリストにならなきゃ、政治の裏は分からない。金の流れが全て決めてるんだから、それ知らなきゃ分かんないんだ。 」

最初に懐に飛び込んだのが、時の権力者・吉田茂首相と対立し、冷や飯を食っていた鳩山一郎
「 復活して総理大臣になりそうな男だ。それでせっせと通った。最初は会えない。玄関の前、朝から晩まで立ったよ。孫の由紀夫、邦夫をハイシーハイシーで馬になって背中に乗せた。孫を可愛がるっていうんで、身内扱いしてくれて、家中どこでも行けた。 」 「 政治家を取材したいなら、不遇の時に行け。先のありそうなやつと不遇の時に付き合って食い込むんだ。 」

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【 義理と人情とやせがまん 】
主筆室にある掛け軸の言葉。書いたのは、自民党のかつての重鎮・大野伴睦。若き日に昵懇の間柄となった大野派の領袖。
「 大野さんは面白い人だったね。政治家の裏表全部知っているから。父親みたいな感じがしたね。向こうも息子より可愛がってくれたからね。 」
信頼を得た渡辺は、政局の進言や他派閥との交渉も任される。

毎日新聞記者・西山太吉は振り返る。
「 派閥のトップ記者どころじゃない。もう大野の側近中の側近。大野から取材するっていうよりも大野にアドバイスする。派閥の入閣推薦者を選定する、そういう作業もしていた。 」

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日米安保条約改正案を国会で承認するための協力体制のために、党内で次期総理大臣の座を巡って密約が交わされた。岸信介大野伴睦河野一郎佐藤栄作の順番。しかし、岸退陣後、密約は反故にされた。
「 大野さんは総理大臣になれると思っている。でも、入ってくる情報は違う。それで、岸さんに談判に言ったんだよ。そうしたら『 白さも白し、富士の白雪だ 』 と言った。4年前の総裁選で、岸さんから協力を頼まれたのを大野さんが拒んで「 派としての態度は白紙だ 」 と言ったことの意趣返しだよ。」
大野は総裁選に立候補すら出来なかった。
「 大野さんに朝6時に呼ばれて行ったんだ。あの虎みたいな人が泣いてたよ。誰かに心情をさらけ出して慰められたかった相手が俺だったんだ。 」
「 騙されたんだよ。騙して騙されての世界。騙される方が悪い。 」

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韓国との国交正常化交渉。
渡辺は取材者としてだけではなく、当事者として関わっていた。
「 大野は韓国嫌いだった。それで、政権№2の金鐘泌と会わせた。金は頭が良くて、対日コンプレックスもない。二人は一発で仲良くなったね。 」
大野が訪韓する際にも、立案・企画、同行者の名簿まで作っていた。
「 全部首を突っ込んだ。若かったからエネルギーもあったし、度胸もあった。 」
大平・金の交渉合意をすっぱ抜いた。
「 『 大平 ・ 金 合意メモ 』 っていうのがあって、金からそのメモを見せられた。国交回復の賠償額がザラ紙に書いてある。大平と金の二人が勝手にやっちゃったんだ。 」
しかし、総理大臣の池田勇人はその合意の承認を渋った。
大平は池田を領袖とした党内派閥・宏池会の№2。二人は師弟関係にあった。
「 僕は大平さんに聞いたの。『 池田さんとツーカーいってないね。 』 そうしたら『 池田は私を嫌っている。嫉妬ですよ。 』 自分の権力に№2が近寄ってくると必ず警戒する。池田さんと大平さんは親子みたいな関係だと、それまで思っていた。でも、そうじゃない。政治家ってのは微妙だな。 」 「 生臭い人情が政治・外交を動かしている。だから、新聞記者というのは、そこまで入らんと分からんわけだよ。 」
渡辺は大野を動かして、渋る池田首相を説得する。大野の顔を立てるという形で国交正常化はされた。
「 当時だから出来たんだね。今はそんなことできないですよ。 」
( 新聞記者がそこまで首を突っ込んで良いのか、という質問に対して ) 「 当時もみんなそう言ったよ。でも、国交が無いんだから。前例が無いんだから。無いものを作ろうと。これはお互いの国益にプラスなんだ。 」

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沖縄返還の章。
この部分のインタビューは具体的な話が少ない。口が重かったのか、公に出来ない話だったのか?
かわりに、西山記者の「 情報漏洩とジャーナリズムの在り方 」 の話がメインになる。「 ジャーナリズムには権力の監視機能がある 」 という制作サイドの恣意的な意図が全面に押し出されて、インタビュアーの大越が誘導して結論付けている部分もある。渡辺のインタビューから何かを導くという本来の意図からは外れている。
ここで渡辺から出てきた具体的な話は一つだけ。
「 西山さんは大平と親しい。佐藤首相は大平と敵対関係にある。大平をやっつけようと思ったんだね。 」

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盟友・中曽根康弘
「 政治家ってのは、パフォーマンスが上手くなきゃならんのだ。政治家の必要条件だから。全然人に知られない、認められない、それじゃ天下とれない。中曽根さんは金無いからね。子分を金で買う事が出来ない。だから、パフォーマンスで売り出した。 」
田中派は党内最大の勢力、100人はいた。中曽根派は40人くらい。それで中曽根に言ったんだ。『 角さんと会って抱き合うんだ 』 彼は実行した。それで、同盟が出来るんですよ。二人は当選同期。中曽根は東大卒。角さんは中卒。コンプレックスもあっただろうが、中曽根の方が抱きついてきた。それで喜んじゃって手を握るわけだ。 」
中曽根、渡辺、共に憲法改正論者。
憲法改正自衛隊自衛軍にしたかったんだが、やっぱり野党工作。国会全体の運営をやっていかなきゃならん。ぎりぎり過半数だから出来ないですよ。国民投票もやってみないと分かんない。わざわざ投票に行って、改正に判を押してくれる人が過半数いるのかどうか。 」
「 政治家っていうのはね、たまには豹変しなきゃ。昔の思想、昔の体制にこびりついておったら、成功するわけがない。 」

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歴史は人によって作られる。
渡辺恒雄の原体験には、軍隊の苦い想いと共産党参加があって、世の中を変えたいという意思が突き動かしていく。しかし、政治家になることはなく、あくまで新聞記者として。しかし、新聞記者であったが故に、失職することもなく職域を飛び越えて政治に添い続ける。
人と人が繋がって影響し合って小さな動きが大きなうねりとなる。最近流行のコロナのように、渡辺が作ったウィルスは伝播し社会を直接 ・ 間接的に動かし拡大し続ける。私は読売新聞購読者では無いし、渡辺の著書を読んだことも無い。でも、ひょっとしたら、私にも感染しているかもしれない。感染しているかどうか、私には分からないけれど。

「 昭和編 」 ということで、続編の「 平成編 」 もそのうち放送される。昭和は過ぎ去った時代。30年以上前の出来事。過去を懐かしむのは、それはそれで面白いけれど、大切なのは今。
現代の政治を渡辺はどう見ているのか? また、「 平成編 」で見えてくるものもあるだろう。