行き先も見えず、多岐亡羊

おじさんがダラダラ書いている日記的なモノ

かなりヤラレル

 

ジブリは時々、こういう繊細な作品を作る。
偏屈な爺様、宮崎氏の趣味なんだろうか?

思い出のマーニー
2014年公開 米林宏昌監督
【 未見で視聴予定のある方は読まないように 】

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幼児で賑わう公園。小学校高学年の生徒たちは課外授業でスケッチをしている。その喧騒の中、杏奈はポツンと一人。友達はいない。どこにも馴染めない。どこにも入れない。浮いた存在。持病の喘息と養母・頼子と上手くいっていないことが根底にある。でも、頼子と喧嘩している訳ではない。彼女は意地悪ではないし、彼女なりに一生懸命だ。でも、杏奈にはそれが煩わしい。心を閉ざした状態。難しい年頃ということもある。

喘息の治療もあって、頼子の知り合い、空気の綺麗な田舎で過ごすことに。
初めての場所、初めての人たちだが、杏奈にはどうでもいい。どこにいても、杏奈は「 異邦人 」で、居場所が無い。親切な人たちで、敵対することは無いが、打ち解けることも無い。どこにいても同じこと。

杏奈は入江に古い洋館を見つける。廃墟で誰も住んでいない。でも、なんだか懐かしい気もする。夢の中で、洋館には灯りが燈り、異国風の少女マーニーと出会う。彼女はあの世の人なのか、それとも杏奈が作り上げた白日夢か。杏奈にもそれが現実ではないことは分かっている。しかし、そもそも居場所が無い杏奈はその世界を受け入れる。

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現世のものではない金髪で碧い瞳の美少女との邂逅。廃墟の洋館と朽ち果てたサイロ。見知らぬ土地、見知らぬ人々、孤独な主人公。不気味な干満を繰り返し、時には強く襲いかかる海。寡黙な老人と風景画を描く老女。不可解なマーニーの言動。現実と夢、それとも白日夢、杏奈の意識も不安定。なぜマーニーは杏奈の前に現れたのか?

ホラー的でサスペンス調の設定。これが楳図かずお伊藤潤二のデザインなら、主人公がおどろおどろしい世界に引き込まれる怪談話。しかし、そこはジブリなので可愛くて爽やか。有村架純さんの顔が思い浮かべば、気分も華やか。そんなに悪い事態にはならないだろうと安心して見ていられる。
杏奈は魔界に落とされることもなく、物語は洋館の新しい住人・彩香がマーニーの日記を見つけたことで、彼女の人生を探る話に。

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見掛けの華やかさを裏腹に、あまり幸福とはいえなかったマーニーの人生が見えてくる。両親は悪い人ではなかった。マーニーを叱ることも暴力的に接することもなかった。寧ろ、会う時はいつも優しかった。問題はほとんど会わなかったこと。享楽的で奔放な両親。マーニーの世話を婆やに任せたまま、世界中を遊び歩いた。育児放棄。婆やと使用人たちは厳しく、彼女には打ち解ける人間がいなかった。
唯一、彼女を分かってくれた和彦と家庭を築き、一人娘を授かった。しかし、和彦と死別、マーニーは病気療養を必要としたことから、娘を学校寮に預けることに。結果として疎遠に。両親と同じことをしてしまった。娘夫婦が事故死したことで、孫娘を育てることに。今度こそは失敗しない。孫娘を自分の手で愛情かけて育てる。そう決意するが、寿命が尽きた。幼い孫娘を残して、あの世へ旅立っていった。

マーニーの人生は些細なすれ違いで失敗し、後悔することも多かった。それでも、彼女は精一杯生きた。杏奈はマーニーと出会い、打ち解けて苦しい胸の内を告白することで、胸の棘が抜ける。自分の境遇がそれほど悪くないことも知る。血の繋がりは無くても、頼子は良い人だ。養育費を受け取っていたことへのわだかまりも消えた。自分を置いていったマーニーを許すことで、少し成長する。
そして、杏奈は最後に、マーニーが何者で、なぜ自分の前に現れたのかを知る。

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信子という女の子。
クラスの女子リーダー。頼りになる姉御肌だが、デリカシーに欠ける部分はある。アウトロー街道まっしぐらの杏奈とはソリが合わない。「 太っちょ豚 」 の通り、アニメキャラクターとしては魅力的とはいえないし、主筋に絡む訳では無いし、出番も多くはない。でも、杏奈が唯一感情的になった、物語のアクセントとして重要なキャラクター。
お互い傷つけあって険悪な関係。でも、二人は最後、少しだけ和解する。杏奈は謝って、信子は「 来年はゴミ拾いするのよ 」 と返した。全面的な和解は持ち越し。だけど、来年対話する機会は得られた。二人が友達になれるかどうかは分からない。未来への可能性を残し、杏奈が少しだけ前進したことを示した。

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老いたマーニーの子守歌は「 アルハンブラの思い出 」。ギター独奏されることの多い、切ないメロディー。最後に流れる曲も、これまた切ない曲で、プリシラ・アーンの歌う「 Fine on the outside 」。この曲で、かなりヤラレル。これはたぶん、宮崎氏の趣味では無いだろう。